TITLE:福井県消化管撮影研究会

令和元年度活動記録

<<<平成30年度活動報告へ   
 
内容の詳細は各開催回数の所をクリックしてください
 
令和元年度開 催 日会  場内  容
第144回12月3日(火)福井県立病院 会員発表「カテゴリー分類を画像資料から学ぶ」
会員発表「読み方の基礎」
会員発表「胃がん取扱い規約 読影レポート記述のために」
第143回10月1日(火)福井県立病院 メーカー情報提供「マイクロアレイ血液検検査のご紹介」
会員発表「読影補助のための用語」
会員発表「胃X線検診におけるカテゴリー分類について」
第142回8月6日(火)福井県済生会病院 メーカー情報提供「コロンマットの製品説明」
会員発表「変形胃の撮影法についてみんなで考えよう」
第141回7月6日(土)福井県立病院 メーカー情報提供「ホリイの高濃度バリウムの特製」
特別講演「ピロリ菌感染並びに除菌後の背景粘膜を考慮した胃X線診断の臨床的有用性」
「症例検討」レクチャーを受けながらのディスカッション
第140回6月4日(火)福井県立病院 会員発表「平成29年度胃がん検診結果報告」
2019年度総会

第144回研究会

会員発表 「カテゴリー分類を画像資料から学ぶ」

福井県予防医学協会 平田 智嗣 さん

富山消化管撮影研究会での、『「カテゴリー分類に挑戦!」(実際の症例を用いて)』の講習で使われた画像をお借りして、4症例についてカテゴリー分類を行った。
当然であるが、所見が無いなら無いと、あるならそれがきれいに写し出された写真でなければ判断するのが難しくなる。
しかし、胃X線検査は、受診者や撮影側のいろんな条件に左右されやすいのが悩ましいところである。
カテゴリー分類については、まだ完全に浸透していないようである。しっかりと頭に叩き込んで、数をこなしていく必要があると感じた。
福井県の対策型検診におけるカテゴリー分類は、読影担当医への周知が十分ではなく。また、検診システムやアウトカムの変更の観点から実施されていないが、2~3年後の導入に向けて検討されると思われる。

会員発表 「読み方の基礎」

田中病院 山川 典子 さん

所見を読む時に、どう読んで行けば正しく読めるのかという話である。
当てずっぽうで結論付けるのではなく、理にかなった読影をするためには、理解しておかなければならないことがいくつかある。
読影をするためには癌の特徴を知る必要があるということで、「胃がんの三角」のおさらいから始まった。(①場所②組織型③肉眼型である)
① 場所
胃固有粘膜が、なぜ、どのようにして腸上皮化生粘膜に置き換わっていくのか。
F境界線内部、F境界線外部、F境界線近傍、それぞれの粘膜の質的構成について、背景粘膜、いわゆる「場」の話を行った。
② 組織型
それぞれの「場」からどのような癌が発生するのか「組織型」についての話に移った。
胃固有粘膜からは未分化型癌が発生し、腸上皮化生粘膜からは分化型癌が発生する。
基本はこれであるが、ただし例外はあるということも頭にいれておく必要がある。
組織型鑑別は、所見が良性であるか悪性であるかを判断していく上で重要な事がらである。
なぜなら、分化型癌と未分化型癌とではX線像に写し出される所見の特徴に違いがあるため、X線に写し出されている所見と、組織型の特徴との一致点を見出すことができれば、良悪性鑑別の根拠となりえるからである。
それでは、なぜ2つの組織型はX線像で違った特徴を表すのかということを、胃底腺粘膜と腸上皮化生粘膜それぞれの癌の発生段階から、その後増えていく方向、広がり方などについて話した。
ある病理の先生の話を引用させていただく。
『背景粘膜が異なると、細胞分裂帯が微妙にずれているので、癌の発生部位が異なり、また癌がその後増えていく方向も異なる。ごく初期の段階で、発生する部位も進展する方向も違うということにより、胃底腺粘膜に発生する未分化型癌と腸上皮化生粘膜に発生する分化型癌とはかなり早期の段階から「まったくカタチの違う癌」として進展していくことがわかる。』ということになる。
③ 肉眼型
なぜ未分化型癌の陥凹境界は明瞭で、辺縁は断崖状になるのか、なぜ表面性状は不規則な大小の顆粒状の凹凸変化が見られるのか、ヒダは急な中断やヤセが見られるのか、それに対して、分化型癌ではなぜ辺縁は不明瞭になるのか、表面性状は胃小区模様を保持していたり、平滑な微細顆粒、輪郭が不明瞭な不整な凹凸に見えたりするのか、ヒダはなだらかな細まりやヤセを示すのかということを説明していった。
まとめ読影のポイントを「面」「境界」「ヒダ」の3つに分解して、特徴的な所見とそれを表すための用語の説明を行った。
  面:平滑・インゼル
 境界:明瞭・不明瞭
 ヒダ:中断・先細り・消失・融合
最後に、F境界線内部領域、外部領域、近傍領域の病変の特徴、注意すべき点をまとめて終わった。

会員発表 「胃がん取扱い規約 読影レポート記述のために」

福井県立病院 飯田 圭 さん

レポートを記載する際には、そのための用語を覚える必要がある。
まずは、胃癌取り扱い規約を勉強して、レポート記載のヒントにしようということで、規約の説明から始まった。
胃がん取扱い規約とは腫瘍の状態や治療の評価をカルテなどに記載する時のルールを記したもので記録方法の標準となっている。
第1版は1962年に発刊され、その後改訂を重ねて最新版は第15版で、2017年10月に発刊されている。
例えば、手術例に対しての実際の記載法の1例を示すと、

L, Less, Type2, 50×20㎜, tub1>tub2, pT2, int, INFb,
       ly1, v1, pN1(2/13), pPM0(40㎜), pDM0(12㎜)

となるが、その中でも、占拠部位、肉眼型、病巣の大きさ、組織型、壁深達度まではX線写真でも評価することができるので、これらは読影レポートに記載したい。
その後、癌の間質量(med/int/sci)、浸潤増殖様式(INFa/INFb/INFc)、脈管侵襲、リンパ節転移、断端と続いていく。この辺りは、X線写真での評価は難しく馴染みが薄いが、意味がわかるようにはしておきたい。
これら一つ一つについて説明と、胃がんの進行度分類(TNM分類)と病期についての病理分類が紹介された。
その後、早期癌と、進行癌のそれぞれの肉眼型について、実際のX線写真と内視鏡写真を提示しながら見ていった。
最後に、発表者の病院で撮影された6症例が提示され、それぞれ「病巣部位」、「肉眼的分類」、「大きさ」、「組織型」と「深達度」について検討していった。
今回、多くの写真の中から症例提示のための写真を探したが、適した写真が意外に少なかったようで、読影も大事であるが、読影できる写真を撮ることが肝心であることを、スライドを作りながら改めて実感したと述べていた。
どんな読影のプロでも、写真のできが悪ければ、正確に読影することは難しい。
病変をきれいに写し出すことは、簡単なようで実際は難しく、こんなはずではなかったのに・・・と思うことも少なくない。
写真が読めなければ良い写真は撮れないし、良い写真を撮らないと正確な読影はできない。
一朝一夕にはいかないので、日々の研鑽が欠かせないのである。

文責N,Y 校正H,M

第143回研究会

メーカー情報提供 「マイクロアレイ血液検査のご紹介」

カイゲンファーマ株式会社 金沢医薬 宮本 慎也 様

miyamoto143.JPG

血液や唾液、尿などを用いてがん検査を行うLiquid Biopsy(体液を用いた生検)は、侵襲性が低い上に、Stage0~Ⅰのがんを検出できるほど精度が高いということで、最近人気が上がってきているようだ。
国内で上市済みのものだけでも既に6種類があり、その他に4種類が現在開発中とのことである。
マイクロアレイ血液検査は、がん患者の末梢血液中の遺伝子発現(mRNA)が健常者と明らかに異なることを利用して開発されたものである。
現在、膵臓がん、胆道がん、胃がん、大腸がんが対象部位で、この4つのがんを同時に部位別に(ただし、胃がんと大腸がんの識別は困難)検査できる。
がん細胞が発生すると免疫細胞ががん細胞を認識し、援軍を要請し、免疫細胞内で攻撃命令が出る。
この段階で発現する遺伝子物質(mRNA)を調べると、対象となる消化器系がんの場合、末梢血液中のmRNAの発現に特定のパターンがあることがわかってきた。
そこで、変動しているRNA数や、RNAの発現パターン、郡判定(クラスタリング)、統計学的判定の組み合わせパターンを元に判定基準(陽性・境界域・陰性)を導き出し、さらに部位別の判定や例外的な偽陽性・偽陰性症例との比較を行う。最終判定を出すまでに、2665個のmRNAを複数の角度から解析し、その組合せを詳細に検討していくことで高い精度を示すことが可能となった。
いずれの消化器系がん(膵、胆、大腸、胃)に対しても90%を超える高い感度と特異度を示しており、Stage0やⅠなどの早期の段階でも非常に高い感度を示している。
特に、膵臓がんは、早期発見が難しく、治療しても5年生存率が低いがんとして恐れられているが、マイクロアレイ検査での感度は95.7%、特異度が92.9%と共に高く、早期発見の可能性が期待される。
がん患者に対して行った検査では、症例数は少なかったが、早期(Srage0~Ⅱ)の膵臓がんの感度も非常に高く、5mlの採血のみで簡単に検査できることもあり、今後はさらにスクリーニング検査として期待されるであろう。
ただし、自己免疫疾患や5年以内にがんの治療歴のある方、インフルエンザ等のワクチン接種直後などは正しい結果が出ない可能性があるので、注意が必要とのことであった。

kaijou143.JPG

この他に、唾液を用いたサリバチェッカーの紹介もされた。
こちらは膵臓がん、大腸がん、乳がん、肺がん、口腔がんが対象となっており、唾液を使っての検査なので、血液よりももっと侵襲性が低く、費用もマイクロアレイ血液検査の1/3程度である。
ただ、感度は高いが特異度はマイクロアレイ血液検査よりは低く、陽性的中率はやや劣るようである。
しかし、安価で乳がんなど消化器以外の部位もカバーするため、若年層や女性などのターゲットの広がりを期待しているようである。
これらの検査は保険が効かず全て自由診療であり、今は、あくまで健診のすそ野を広げるためのリスク検査としての位置付けである。
低侵襲で高感度なのは非常に魅力的であるが、公的な資金を使用したスクリーニングでは、エビデンスが確立しない限り困難であると思われる、あとは検査費用が安くなることを願うだけである。

会員発表 「読影補助のための用語」

福井赤十字病院 山崎 亮一 さん

yamazaki143.JPG

検査に携わっている者は、異常を見つけた時にそれを言葉で表現する必要がある。
そのため基本的な用語の解説をしていただいた。
まずは、胃の解剖的な用語の定義から始まった。
部位・彎側・壁側を理解することにより異常所見の場所を提示することが出来るようになる。
次に、異常を見つけた時に、それがどのような異常であるのかを表現するための言葉、いわゆる所見用語の解説になった。
バリウムの溜まりや弾き像で表現されるもので、蚕食像、鋸歯状、棘状、びらんなどは抑えておきたいものである。
いつも何気なく使っている言葉が多かったが、改めて用語の定義が再認識できた。
特にひだ集中においては点集中なのか面集中なのか? 
ひだの先端の所見については、先細り・中断・棍棒状・融合などを捉え良性か悪性か、また悪性ならば深達度の判断にも関わってくるので、正確に使うことが大切である。

会員発表 「胃X線検診におけるカテゴリー分類について」

福井県予防医学協会 片田 武彦さん

katada143.JPG

自施設へのカテゴリー分類導入への取り組みについて発表していただいた。
基準撮影法により撮影法が統一されてから、「いつ、だれが、どこでX線検診を受けても一定基準を満たした撮影法と画質で、継続的に評価が可能なものでなければならない。」という撮影の標準化はかなり浸透してきている。
そんな中、読影の判定区分と管理区分については、施設独自の基準や医師の判断に委ねられており、読影医によるばらつきが気になっていたようだ。
そんな時に読影の標準化への動きがおこってきた。
施設内の画像が全てデジタルに切り替わり、過去画像との比較が飛躍的に容易になったこの4月からのタイミングで、読影判定と管理区分が連動しているカテゴリー分類に則った読影に切り替えていったとのことである。
また、HP感染は胃がんの確実なリスク因子であり、Hp未感染胃と現・既感染を選別し、Hp感染による胃炎・萎縮や除菌状況も考慮する必要がある。
ここから、実際のカテゴリー分類導入への具体的な取り組みについて話された。
導入の狙いとして、
• ピロリ菌感染の有無の情報を読影医に提供したい。
• 標準化された判定区分で読影して欲しい。
• 撮影技師が感染の有無を考慮して撮影に臨んでほしい。診断価値のある写真を撮るためにも技師チェックは必要である。
• バリウム検診を胃がん検診のリスク層別化の体系に位置づけていきたい。毎年なんとなく受診していただくだけでなく、除菌や内視鏡検診への勧奨につなげたい。
これらを考えながら進めていきたいと述べられた。

kaijou143-2.JPG

実際には、まず問診票に「ピロリ菌検査を受けたことがあるか」、「ピロリ菌除菌療法を受けたことがあるか」との質問を付け加え、読影医にはカテゴリー分類をチェックしてもらう欄を増やした。
技師チェック表も新たに作り直して、異常所見のチェックの他に、背景粘膜評価として胃小区像、ひだの形状、ひだの分布の判定を行い、カテゴリー分類の判定を行うように作られている。
カテゴリー分類を行うためには、背景粘膜やひだの観察が必要で、それらの評価が可能な写真が求められる。
おのずと撮影技術と読影補助も向上していくであろう。
その後、自施設で撮影された写真を使って、カテゴリー1から5までの症例を提示していただいた。
除菌前と除菌1年後との写真の比較では、個人差もあると思うが、大彎側のひだの肥厚と蛇行がかなり軽減されており、1年でこんなにも変化が起きるのかとびっくりした。
取り組みを始めて半年が過ぎ、今後はカテゴリー分類のチェックだけで終わらずに、これを次につなげていく必要があると述べてまとめられた。
本研究会でも、各施設で撮影された写真を持ち寄り胃壁の萎縮が有る・無しの目合わせを実施してカテゴリー分類のトレーニングができれば幸いである。

文責N,Y 校正H,M

第142回研究会

メーカー情報提供 「コロンマットの製品説明」

伏見製薬株式会社 東日本医薬品営業部 名古屋営業所 松本 尚樹 様

matumoto142.JPG

昨年4月に発売したばかりの大腸CT検査補助具である「コロンマット」の紹介をしていただいた。
大腸CTで腹臥位にて撮影する際に、腹部の圧迫により腸管の拡張が上手くいかないことがあるが、このマットは圧さ60㎜のポリエチレン発泡体でできた長方形のマットの中央に600㎜×400㎜の穴が開いており、腹部と寝台の間にできた空間にお腹を入れる事によって、炭酸ガス注入時に腸管の拡張を良好にする効果がある。
ただ、身体の小さい方や非常に細い方で身体全体がマットにはまってしまう場合は、タオルなどを横に入れて補正する必要があるらしい。
腹部側に傾斜があることで、足腰の負担も軽減され、左右のブロックで身体を支えることで体位維持の負担が軽減できるようだ。
空洞部分の中身もついており、空洞を埋めて通常のマットとしての使用もできるとのことである。
背臥位撮影の際は、特に円背の方は空洞に背中が入ることで、無理なく背臥位の体位維持が可能になるようで、大腸CTに限らず、通常の撮影時にも役立ちそうである。
側臥位での撮影時は肩をマットの空洞に入れるとマットが枕の代わりになり首や肩の負担を軽減できるようになっている。
体位変換の際は、マットはひいたままで、その上で受診者が回転するだけなので、最低限の介助で体位変換が可能である。
受診者の回転側に立って介助を行うと効果的であり、受診者が寝台から落ちないようにすることと、回転時にチューブが抜けない事に注意が必要である。
コロンマットを使用した場合と使用しなかった場合との比較評価では、コロンマットを使用しなかった場合の約400例で拡張良好な割合が49%であったのに対し、コロンマットを使用した約200例では79%が拡張良好であったとの評価が出ていると紹介し、大腸CT検査において、腸管の良好な拡張は重要であり、コロンマットを使用することで良好な腸管拡張の画像が得られているとの評価を頂いたと述べられた。
その後会場からの質問がいくつかあった。
(Q)耐久性は?
(A)発売して1年少ししか経っていないが、発売当初から使用している施設では今の所問題はない。
(Q)コロンマットを改良して、胃透視の前壁撮影が簡単にできる圧迫枕を開発して欲しい。
(Q)空洞の部分を体型に応じて変化させられると良いのでは。
(A)貴重な意見として報告します。
(Q)マットの上に寝ると痛そうな印象も受けるがどうなのか。
(A)硬さはビート板程度の弾力があり、身体に当たっても痛くはないように作られている。
(Q)途中でずれることはないの?
(A)縦にずれることは無く、横へのずれもマットが寝台と同じ幅で作られており、よほどの動きが無い限り動くことはない。

会員発表 「変形胃の撮影法についてみんなで考えよう」

福井県予防医学協会 平田 智嗣 さん

hirata142.JPG

横胃や瀑状胃などの変形胃の撮影時の工夫について、皆の意見を聞きながらディスカッションをしようということである。
まずは、基準撮影法のおさらいから始まった。 先日の消化管撮影技術向上セミナーで、富山の原田先生が講演されたスライドが紹介された。
「いつ、だれが、どこで胃X線検診を受けても、一定基準を満たした撮影法と画質で、継続的に評価が可能なものでなければならない」というのが胃X線検診のベースにあり、そのために統一された撮影法が基準撮影法である。
逆に言えば、受診者は一定基準を満たした撮影法で検査を受ける権利があり、基準から外れた検査で後々問題が起こったときは、その責任を問われかねない。
コンプライアンス遵守が重要視されている現代社会において、基準を守らない撮影を行えますかという問いかけであった。
圧迫枕を入れない、回転不足、撮影体位の不足など、決められたことをやらない(できない)のなら、その理由を説明する義務があると訴えかけられていた。

 

ここから変形胃の撮影法の話になった。
まずは牛角胃、横胃、瀑状胃の定義について説明があった。
次に基準撮影法での4つの撮影体位について牛角胃・横胃の特徴と問題点を述べた。
以下の通りである。
【背臥位正面像】
小彎は背側に、大彎は腹側に変位する。
胃体上部は穹窿部に溜まったバリウムと重なりブラインドとなる。
前庭部は背側に折れ曲がった状態になるため後壁の描出範囲が狭くなる。
後壁は正面視できない。
【腹臥位第一斜位】
変形が強くなるにつれ噴門は他部位のバリウムと重なりブラインドとなる。
二重造影の範囲も狭まる。
【右側臥位】
小彎線は「く」の字に折れ曲がる。
変形が強くなるにつれ噴門と前庭部は重なりブラインドとなる。
胃体上部の観察範囲が狭くなる。
【圧迫撮影】
変形胃では圧迫不良となる場合が多い。
これらの問題点を克服するための工夫として、
① 《胃に対するX線入射角を変える方法》
管球の角度を調整する
例(背臥位では入射角を頭→尾に、側臥位の上部で尾→頭方向に変位させる)
上体を起こす、ヒップアップなど体位を変える
② 《変形胃を鈎状胃に近づける方法》
バリウムの重みを利用する
圧迫筒、圧迫フトン、圧迫帯などを使用する
③ 《良好な造影効果を得る方法》
水平位、頭低位でのローリング
などが提示された。

kaijou142.JPG

次に、実際に発表者が撮影した変形胃の写真を提示して、より良く撮影するためには、どのようにすべきかについて会場から意見を求めた。
1例目は牛角胃の写真である。
撮影者の工夫した点および反省点
工夫点
・背臥位二重造影では胃角正面を出そうと頭を上げて胃を矯正して撮った。
・体部を見るために強第一斜位にして撮った。
反省点
・ハレーションを起こして黒つぶれしてしまった。
・前壁撮影は枕の効果が不良で思うように撮れなかった。
会場からは以下のように多くの意見が挙げられた。
・ 背臥位第一斜位の角度に問題がある。
・ 背臥位第一斜位の撮影時にアントルムの膨らみが悪い。
タイミングを見て撮影すべき。
・ 背臥位二重造影時、全体的に小彎側のバリウムの付きが悪い。
水平位からやや頭低位でのローリングもしくは左右交互変換を行った方が良い。
・ 前壁二重造影では撮影者の言う通りに大彎側しか見えていない。
枕の厚さが足りず胃の矯正ができてない。
もっと厚みのある枕を使用して押さえることで、大彎側が下がり鈎状胃に近くなる。
そこで水平にして深呼吸をしてもらい空気が入った瞬間に頭を下げて息を吐かせると良い。
また、胃形によっては枕を斜めに入れる方法も効果的である。
・ 腹臥位第一斜位では撮影体位は良いが、被写体を真ん中に持ってきて絞りを使うと黒つぶれの所が改良される。
もう少し台を立てるとバリウムの重みで胃が下に伸びて描出範囲が広くなるのではないか。
ただ、台の上げ過ぎに注意は必要である。
・ 振り分けは、下からバリウムを上げて、上から落とすのが原則である。
胃入口部から胃角までの小彎ラインが一直線で良く見えるような角度で台を少し起こすとバリウムが落ち切ったところで撮影すべきである。
・ 右側臥位から肩はそのままで腰だけを仰臥位にひねることによってねじれを解消させて、重なっている部分をはずすことができる。
小彎のラインを広げることができる。
・ 半立位第一斜位では寝台を垂直まで立てずに撮る。
穹窿部にバリウムが残っているので、頭を下げてバリウムを落としてしまった方が良い。

 

2例目は下垂胃の写真であった。
背臥位の写真ではどれも体上部~中部にバリウムが残りがちである。
その対処法として、
・ 頭低位にして呼気、吸気を利用する。
・ 頭低位から少し第二斜位にして小彎側からバリウムを抜いていく
・ 大彎側に湾入があり、そこにバリウムが引っかかって抜けない時の方法としては、頭を上げると湾入が取れることがある。
・ 息を吸わせて、その瞬間に頭低位にして湾入のところを伸ばして撮る
などの方法が話し合われた。
前壁撮影は枕を使わずにきれいな二重造影になっているが、回転不足のせいか若干のバリウムの付着不足が見受けられる。
(下垂胃に関しては前壁撮影時に枕を使用しないか極めて薄い枕を使用した方が良い)
枕を入れる時にシェイキングするのも一つの方法ではとの意見が出た。
撮影者は背臥位二重造影からそのまま腹臥位にして二重造影を撮ったようで、背臥位第二斜位の写真を撮影後、腹臥位にしてから寝台を起こして、一度バリウムを下に落としてから枕を入れることで前壁へのバリウムの付きも良くなるのではとの意見が出た。
半立位第一斜位では先ほどの1例目と同じで、寝台をもう少し寝かせて撮った方が良いが体部はしっかり写っている。
多少、上部の黒つぶれが気になるので絞りを活用して欲しいとの意見が出た。
最後に、撮影しにくい胃形に遭遇した時はブラインドのない撮影を心がけましょうということで意見が一致した。

文責N,Y 校正H,M

第141回研究会

メーカー情報提供 「ホリイの高濃度バリウムの特製」

堀井薬品工業株式会社 片岡 叶平 様

kataoka141.JPG

堀井薬品では現在3種類の高濃度バリウム製剤を取り扱っており、どれも大粒子と小粒子が配合されているが、その比率は「バリコンミール」と「988」は大粒子8割、小粒子2割、「975」は大粒子7割、小粒子3割である。
大粒子は粘度が低くなり、酸の影響を受けにくいが、付着力が弱くなり、沈殿が早いという特徴があり、小粒子はその逆の特徴を持つ。
硫酸バリウム製剤の97~99%は硫酸バリウムで、残りの3~1%が懸濁化剤や甘味剤、防腐剤などの添加材で構成されている。
懸濁化剤は水に溶けず比重の重い硫酸バリウムを水中で分散させる役割があり、「バリコンミール」と「975」にはカラギーナンが使われている。
ただ、カラギーナンは酸には強いが、粘液に付着する傾向があり、どうしても厚付きになりやすい。
しかし、「988」はカラギーナンを使用していないので付着過多にならず繊細な粘膜の描出が得られやすいとのことである。
他にも、胃酸や発泡剤などの影響を受けにくい、胃内流動性が良い、DR撮影にも適している、などの特性を持つと紹介された。
3つのバリウム製剤の粘性を比較すると、水で撹拌しただけでは「バリコンミール」が9.5mm2/sで3種類の中で一番低いが、胃の中に入った状態を想定すると粘性が26.5mm2/sと一番高くなってしまう。
逆に水で撹拌しただけでは12.7 mm2/sであった「988」は、胃の中を想定した状態では5.3 mm2/sと、非常に粘性が低くなるというのも「988」の大きな特徴であろう。

品名推奨濃度粒子分布比率特徴
バリコンミール240~200W/V%大8:小2付着過多ぎみ
 
ホリイ98.8240~200W/V%大8:小2胃内流動性良好
飲みやすい
ホリイ97.5200~180W/V%大7:小3付着過多ぎみ
 
 

特別講演 「ピロリ菌感染並びに除菌後の背景粘膜を考慮した胃X線診断の臨床的有用性」

戸田中央総合病院 消化器内科 / 病院長 原田 容治 先生

ワンポイントレクチャー:技師の立場から

戸田中央総合健康管理センター 小田切 洋之 先生

Dr.harada.JPG

原田先生はまず、胃X線検査が精度の高い検査とされない4つの理由をあげられた。
① 基準撮影法の遵守
② 読影医師の教育
③ ピロリ菌の感染を考慮した背景粘膜の認識
④ 入れ歯安定剤によるバリウム付着過多の影響
1つ目は、いまだに基準撮影法を遵守していない施設の存在である。
基準撮影法は、胃X線検査のマストであり遵守されなければならない。しかしながら基準撮影法にも弱点はある。
ここで症例が提示され二重造影で胃角開大は認められるが、はっきりとした所見は認められない。ところが、充盈像と圧迫を見ると、側面像で陰影欠損の中に突出したバリウムの溜まりが認められる進行がんの症例であった。
バス検診など二重造影だけの撮影であったら、この胃角開大の所見だけでは見逃される可能性もある。
原田先生は、このようなことがあると、やはり胃X線検査の精度は低いと言われてしまうことを危惧されており、現在の基準撮影法で足りないところは補っていく必要があると述べられた。
2つ目の理由は医師の教育についての問題で、読影医師の育成が急務であると述べられた。
3つ目の理由がピロリ菌感染を考慮していない胃X線検査である。
萎縮性胃炎や肥厚性胃炎など、ピロリ菌感染胃炎を重視したX線画像を的確に診断することで、効率の良い胃がん検診が可能となると述べられた。
4つ目の理由が、入れ歯安定剤による影響で現象としてはバリウムの粘性が上がり付着過多となり粘膜が描出されなくなる。この対策としては飲水させる方法が言われている。 (私見ではあるが、この様な状況下で水を50㏄~80㏄飲用させて改善した経験がある)
このような問題点があるものの、先生の近隣の市町村での胃がん検診での癌発見率は、毎年0.2%前後で決して低い数値ではないことと、先生の病院全体での胃X線検査数の推移を見ても検査数は減っていないことからも、X線検査は今後も必要であり、しっかりと撮影していただきたいということであった。
撮影者へのお願いとして、基準撮影法を徹底するとともに、先程の症例を見れば当然であろうが必要であれば圧迫像と充盈像は追加して欲しいと述べられた。
診断におけるカテゴリー分類において、カテゴリー1からの胃がん発見率は0.009%であるが、カテゴリー2になると0.239%になる。
がんリスクを想定することで発見効率上昇が期待できるので、カテゴリー2以上は充分に気を付けて撮影も読影もして欲しいと希望され、ここから本題に進んでいかれた。

 

ピロリ菌感染の有無による背景粘膜
ピロリ菌感染者の背景胃粘膜は概して良好ではなく、胃がんの発生が多い。最近ではピロリ菌除菌後の方が増えて、背景粘膜にも変化がみられるので、その変化を明確にしていく必要がある。
胃X線撮影時に撮影者はピロリ菌感染の有無を短時間で判断しなければならない。
そのために先生が作られた基準が紹介された。
付着状態が正常だったら(-)、きたなかったら(+)と判断する。
粘膜ヒダも正常だったら(-)、腫大や蛇行、消失があれば(-)、粘膜面は凹凸があれば(+)、無ければ(-)とする。
この基準で50症例について検討が行われた。
血清抗体価は10U/ml以上を陽性と判定している。
この判定基準での陽性的中率は95%であるが、陰性的中率が80%しにかならなかった。
ただ、除菌後を除くと的中率は高くなり良好な結果となったようで、除菌後の判定が難しいようである。
ピロリ菌除菌後の背景粘膜の検討
 ★抗体価10U/mlを基準で検討
まずは、ピロリ菌除菌後の胃X線像を年齢別に検討された。
いくつかの症例が提示されたが、受診者の年齢では一定の傾向はないようであった。
次に、除菌後の年数による検討をされた。
評価項目は、粘膜皺襞が「明瞭」か「不明瞭」か、全体のきれいさは「きれい」か「きれいでない」か、粘膜像の描出能は「良好」か「不良」で判定し、3年未満、3年~10年、10年以上に分けてそれぞれ評価されていた。
結果は、10年以上の症例が4例しかないので一概には言えないが、粘膜皺襞と全体のきれいさについては、中長期(3年~10年)では改善するとは言えない傾向にあり、粘膜像の描出能は比較的早くから改善する傾向が多いようである。
次に、同一症例でのピロリ菌除菌前後の検討を24例で行った。
この検討では、粘膜皺襞の変化が意外に乏しいこと、約40%に比較的きれいな像が得られていること、粘膜面の描出能は約60%で改善例が見られることが判定された。
これらの結果から、ピロリ菌除菌後の胃X線像について以下のようにまとめられた。
・ 比較的きれいな像が得られる
・ 粘膜皺襞は意外と細かいか明瞭でない
・ 粘膜像の描出も良好な例が多い
・ ピロリ菌未感染ほどサラッとしてない
・ ピロリ菌現感染者に類似するX線像もある
・ 除菌後の期間には一定の傾向はみられない
さらに、胃X線像からみた胃がん検診のアルゴリズムを提示された。
きれいなX線像が得られるということは、ピロリ菌陰性の可能性があり、未感染または現(既)感染も考えられるが、このような方は胃X線検査を続けていけば良い。
それに対して、きたない胃X線像であれば現感染、既感染を疑うので、まずは内視鏡検査を行って除菌をする。
除菌が成功すれば、内視鏡検査または胃X線検査を継続。除菌が不成功であれば、内視鏡検査を続けた方が良いとのことであった。
今までのデータをまとめてみると、おおまかではあるが除菌が成功した方の70%はほぼきれいな胃X線像が見られ、79%は比較的良好な粘膜像が得られるので、約7割は胃X線検査を続けていけば良いが、3割の方は内視鏡検査が望ましいとの結論であった。

 
kaijou141.JPG

ピロリ菌抗体価の再検討
 ★抗体価3U/mlを基準で検討
次に、血清抗体価3U/ml未満を陰性として再検討した。
ピロリ菌陽性が25症例、陰性が17症例、除菌後が8症例の計50症例で検討された。
除菌後の症例を含めた50症例では陽性反応的中度は高いが、陰性反応的中度は低かった。~が、除菌症例を除いた42症例では陽性反応適中度は少し下がったが、陰性反応的中度は上がったという結果であった。
まとめとして
・ ピロリ菌陰性例は、「きれい」で「粘膜面は良好」の特徴像は顕著であった
・ 除菌後に抗体価3U/ml以下の症例は見られなかった
・ 除菌後陽性でも除菌後の胃X線像は比較的良好で抗体価10U/ml未満での特徴像と類似している。
・ ピロリ菌陽性者では抗体価数値と胃X線像の関連では、抗体価が高い例では陽性の特徴が見られた。
抗体価3U/mlで切って陰性になった方の胃X線像は、本当にきれいで粘膜面も非常によく出ており、しっかりと写真を撮影すれば病変を見逃すことはないと述べられた。
抗体価10U/mlを基準とした時の特徴と似ているので、3U/mlにこだわらなくても10U/mlを基準での特徴像を把握することが重要であるとのことであった。

 

ピロリ菌感染診断の教育は胃X線撮影に有効か?
―当院での胃がん検診での現状から―
「胃炎と粘膜萎縮の読影法」の教育講演を聞いた後は、講演前と比較して感染診断の精度が感度も特異度も高くなったという論文が発表されている。
先生の施設でも同じように検討したところ、撮影時にピロリ菌陰性か陽性かを見分ける努力を行うことで多くの撮影者は除菌後のX線像の特徴を把握し理解できるようになり、その陰性判断率は約70%とアルゴリズムに一致したとのことであった。
先生の施設では技師も2019年1月からはカテゴリー分類を記載するようになったようで、さらなる知識の向上を目指したいと述べられた。

 

除菌後の胃がん発生に関して
過去に発表された論文からの報告である。
・ 除菌群でも年率0.1~0.5%が発見されている。
・ 見逃しがんや潜在がんは除菌後5年以内に発見されている。
・ 内視鏡治療後・高度萎縮胃炎では10年を超える長期の注意が必要である。
・ ピロリ菌感染者は高齢者で、萎縮・腸上皮化生になっていることが多いため、除菌療法による顕著な胃がん発生抑制効果を期待できない。
・ 除菌療法後も丁寧な経過観察が極めて重要である。
・ 除菌療法後の胃がんリスクの形成の要因は何であるのか?いかにリスクを減らせるか?が今後の課題である。
ピロリ菌除菌後の大きな問題として、除菌しても本当に陰性なのか確定は難しいため、大事なことは定期的に検査(内視鏡・X線)を受ける事であると話された。

 
odagiri141.JPG

胃がんを発見するための撮影技術
―実際に撮影する立場からの助言-
まずは鈎状胃、下垂胃、牛角胃、それぞれの胃の形を把握し、寝台の角度や体位変換によるバリウムの動きを理解することが大事であると述べられた。
できるだけ描出範囲を広げるためには、圧迫筒やタオルを使用して船底型の胃壁をできるだけ平坦にしたり、管球を振ったり、ヒップアップするなどの工夫で胃壁を平行にして鈎状胃に近づけるなどの方法が紹介された。
牛角胃は、寝台をやや立てながら圧迫筒で押さえると鈎状胃に近づいてブラインドになりやすい幽門部の部分が写し出せる。
前壁撮影は、寝台をおこしてバリウムの重みで胃を鈎状胃に近づいた状態にしてからタオルを入れ、それがずれないように寝台を頭低位にしていくと正面位のままでもきれいな二重造影が撮れると撮影の様子を動画で紹介された。バリウムと空気の置換が絶妙であった。
また、バリウムを流した直後に撮影することが大事であるということで、胃がんのファントムにバリウムをかけて、直後、10秒後、20秒後、30秒後の写真の比較が紹介された。時間と共に少しずつバリウムが剥がれてくるのがよくわかった。
また、バリウムを流しながら撮影することで、病変が描出されやすくなるし、バリウムの厚さを変えることで病変の高さや深さが表現できる。
空気量は画像への影響が大きく、深達度診断には空気量の調節が重要になってくると話された。
最後に、原田先生が、限られた枚数と時間の中で、どう病変に気が付くかが大事であり、病変に気が付いた時は押してみることが、特に大彎、小彎の病変には大事で、バリウムもしっかり流して撮って欲しい。撮影時におかしいと思えるか?を考えて欲しいと述べられた。

 

テスト
この後、抗体価10U/mlを基準とした場合と3U/mlを基準とした場合との症例をそれぞれ10例提示して、未感染か既感染か除菌後(-)かを判断するテストを行った。10U/mlと3U/mlとの違いを分かって欲しいとのことであった。
・ 背景粘膜診断は胃がん発見の手段として活用するので、ピロリ菌感染の有無だけを前面に出すものではない。
・ 今後はピロリ菌未感染者が増えてきて胃がんは減少してくるが、ピロリ菌陰性胃癌も報告されている。
また、除菌後の背景粘膜は微妙な変化があるので、病変を発見する意識を持って、しっかりと良い写真を撮影して欲しい。
・ 施設によって装置も写真も違うので、自分の施設でのピロリ菌感染の有無と背景粘膜の基準を作成して臨床に応用して欲しい。

 
katada141.JPG

質疑応答
(質)撮影中に背景粘膜診断を行うのは難しいと思われるが、どこに気を付ければ良いのか、粘膜を見るのか、ひだを見るのか、コツのようなものがあるのでしょうか。
(答)まず、「きれい」か「きたないか」は見ればわかると思うので、その判断をするべきである。除菌後については問診で聞くこともできる。
「のりが悪い」とか「きたない」粘膜であれば、より多く回転させるとか、バリウムをゆっくり流しながらしっかり観察するなど丹念に撮って欲しい。
(質)ピロリ菌に感染した胃の場合、胃癌の好発部位はあるのか。
(答)除菌後の場合、特に好発部位はないと思っている。
未感染の場合は噴門部~体上部にかけての上部に多いとの報告はある。
(質)バリウムが十二指腸に流れてしまった場合に、バリウムの厚みを使って胃の中を見やすくするという話があったが、それについて詳しく教えて欲しい。
(答)もちろん、圧迫で外したり、体位を変えたりが基本的な方法ではあるが、十二指腸に流れたバリウムよりも胃の中のバリウムを少しだけ厚く(濃く)強調することで、十二指腸を通して胃の粘膜を見やすくするということである。
バリウムの重なりでブラインドになった所からかなりの癌が見逃されているということを頭に入れておいて欲しい。
(質)自施設でも、4月からカテゴリー分類を始めている。本を読むとピロリ菌既感染の場合は原則的にカテゴリー2にすると書かれているが、ドクターは、既感染であっても胃の状態がきれいであればカテゴリー1で良いと言われるが、どちらが良いのか。
(答)対象者で変えている。
胃がん検診の場合は癌を見つけるのが目的なので、よほどひどい胃炎でなければ、胃炎があっても癌がなければ、カテゴリー2でも「異常なし」にしている。
そうしないと、結果を聞いた方は、カテゴリー2と言われても説明してくれる人がいないので、どうすればよいのかわからなくなる。
ドックの場合は胃炎の所見があればピロリ菌の話をしなければならないので、カテゴリー2にして良いと思うし、胃炎という所見があると話をする。

「症例検討」出題と解説 レクチャーを受けながらのディスカッション

戸田中央総合病院 消化器内科 / 病院長 原田 容治 先生

【70歳代男性】
ヒダの集中を伴う不整な陥凹性病変で、ひだの先端は中断、陥凹面に顆粒状の凹凸が認められる典型的な未分化型早期がんの症例であった。
【50歳代女性】
胃がん検診で異常を指摘され、内視鏡での精査で生検を含めて胃潰瘍と診断され、6か月後の再検査後に紹介された症例である。
このような症例はsigが多く、見つかったときには既にadvancedの場合が多いとのことである。
漿膜下層まで浸潤してリンパ節転移もある症例であった。
【50歳代女性】
未分化型で深達度SM1の症例であった。
ルーチン写真では、最初、他にも病変のように見える所がいくつかあり迷ったが、丁寧に撮ってあり、だんだん異常がないことがわかってくる。
病変部をチェックするのは非常に難しいと感じたが、撮影された技師のチェックで内視鏡にまわった症例とのことで感心させられた症例であった。

文責N,Y 校正H,M

第140回研究会

令和元年度総会

平成31年度事業報告・会計報告

令和元年度事業計画案

会員発表 「平成29年度胃がん検診結果報告」

福井県健康管理協会   西村 宣広 さん

福井県立病院      飯田 圭 さん

nishimura140.JPG

最初に、平成29年度胃がん検診の統計が発表された。
平成17年度からの要精検率の推移をグラフで見ると、10%を超えていた要精検率が毎年徐々に下がり続けて、平成28年度は6.3%になっている。
平成29年度の要精検率は、男性が7.8%、女性が6.2%で合計7.0%と、前年と比較すると少し高くなったものの、全国平均の7.7%と比べると低く抑えられている。
精検受診率は、平成23年度に82.8%まで上がり、その後しばらくは80%前後が続いていたが、平成29年度は男性が72.4%、女性が81.8%で合計76.8%に下がっている。
全国平均は85.4%であり、それと比較するとやや低めである。
今後、精検受診率が80%を超えて、さらに90%を目指すことが課題である。
がんの発見数は男性が9名(内、進行がん1名)、女性が4名(内、進行がん1名)の計13名で早期がん比率は84.6%、腹控鏡下手術、ESDやEMRが施行された症例は9例であった。
がん発見率は平成21年度からは0.16%~0.18%の間を推移してきたが、胃がん検診が隔年検診になった平成27年が0.13%、28年度が0.11%、29年度が0.12%(全国平均0.15%)と減少傾向である。
個別検診で内視鏡を選択される方が増えている影響で、バリウム検査での発見率が低下しているとも考えられる。
ただ、平成30年度のがん発見率では進行がんの比率が増えているようで、逐年検診が隔年検診になったことの影響が考えられるのかどうか。
もう少し長い目で見なければいけないが、今後の検証の結果を待ちたい。
陽性反応適中度は基準撮影法になってからはおおむね1.8~2.0前後で推移している。
今回、平成29年度胃がん検診で発見された胃がんの症例から、2例を提示していただいた。

 

【症例1】
70歳代・男性である。
2014年に検診受診歴があり、その時は異常なしであった。
2017年6月の胃がん検診で異常を指摘され、7月に近医で内視鏡検査を行い、県立病院に紹介された。
既往は糖尿病、高血圧、肝障害で、胆嚢摘出術と盲腸癌の手術歴がある。父親と兄弟に胃癌の既往がある。
まずは3年前の2014年の検診画像が提示された。特に異常は指摘できなかった。
次に発見時の画像が提示された。
読影者は、背景胃粘膜は、ひだが消失しており萎縮が進んでいると思われる。穹窿部の大彎側に2㎝大の境界明瞭で表面がゴツゴツしている隆起性病変が認められると読んだ。
ここで3年前の写真をもう一度見直したが、ローリングに問題があったのか、穹窿部のバリウムの付きが悪く、やはりはっきりとした所見は認められなかった。
次に精密胃透視が提示された。
別の読影者が指名された。隆起の辺縁は明瞭で上皮性のものが考えられる。隆起の表面が少しゴツゴツしており、大きさが2㎝以上あるので1型の進行癌を疑うと読んだ。
隆起の表面の凹凸不整の所に薄くバリウムが漂っているように見えるが陥凹所見とはいえない。
会場からは、隆起の立ち上がりの所に、ひきつれや硬さが見られず、穹窿部の変形や陰影欠損の所見もなく、SM以深に変化があるように見えないので0-Ⅰ型の早期癌ではないのかという意見が出て、会場は1型進行癌か0-Ⅰ型早期癌かで意見が分かれた。
結果はU領域大彎側の0-Ⅰであった。
大きさは42×28㎜、組織型はpap>tub1>tub2であり、深達度はpT1b2(SM2)で粘膜下層に浸潤しており、リンパ管侵襲がやや目立つとのことであった。
また、この病変の口側の隆起で隠れる非腫瘍粘膜内に1×1㎜の微小な0-Ⅱb病変が確認されている。

 

【症例2】
60歳代・女性である。
2007年の検診では異常なしであった。
2017年6月に胃がん検診で異常を指摘され、8月に県立病院にて精密検査を行っている。
既往は高血圧と高脂血症、卵巣癌の手術歴がある。
発見時の写真が提示された。
読影者は胃角部前壁大彎側寄りにヒダの集中を伴う陥凹が認められる。ヒダの先端には融合や棍棒上肥大が認められるため深達度はSM以深の3型の進行癌であると読んだ。
会場からは穹窿部のヒダの蛇行がハシゴ状、荒縄状に見えるのでスキルスを疑うとの意見が出た。
約2ヶ月後の精密胃透視の写真を見ると穹窿部のヒダは正常にも見えるが、内視鏡の画像を見るとやはり癌が粘膜下に這っているような感じに見える。
最初の生検では悪性所見は出なかったが、X線写真で強く悪性が疑われたため、超音波内視鏡が施行され筋層まで浸潤している所見が認められた。
その後の生検でやっと悪性との結果が出たようである。
病理診断の結果は、L領域前壁の45×22㎜の3型であるが組織学的にpor2>sigを認め、漿膜にまでscirrhousに浸潤するとのことであった。
深達度はpT4a(SE)であった。

 

まとめ
【症例1】については、大きさに惑わされることなく、所見を丁寧に読んでいけば、肉眼型、深達度について正しい結果にたどり着ける症例であったのだろう。
0-Ⅰの早期癌であると読んだ方はさすがであった。
【症例2】は進行癌の特徴が所見としてよく表れており、特に前壁・後壁の鑑別をするのに適した、初心者にも大変勉強になる症例であると思われた。
この症例は平成29年10月の胃腸疾患懇話会に提示されました。以下に病理診断を提示します。

Advanced gastric cancer,poorly differentiated advanced
 Carcinoma,non-solid type
L,Ant,type3,45×22㎜,por2>sig,pT4a(SE), INFc,ly1,v1,pPN0,pDM0,pRM0

発表者は2つの症例を上手にまとめて発表されていた。貴重な症例を提示していただきありがとうございました。

文責N,Y 校正H,M
<<<平成30年度活動記録へ   
 
年度別活動記録へ
 

添付ファイル: filehirata142.JPG 46件 [詳細] fileodagiri141.JPG 42件 [詳細] fileDr.harada.JPG 1件 [詳細] fileyamazaki143.JPG 45件 [詳細] filekatada143.JPG 42件 [詳細] filematumoto142.JPG 43件 [詳細] filemiyamoto143.JPG 46件 [詳細] filenpo-shoukaki-seikanko.GIF 2件 [詳細] filenishimura140.JPG 5件 [詳細] filekaijou143-2.JPG 42件 [詳細] filekaijou143.JPG 43件 [詳細] filekatada141.JPG 1件 [詳細] filekataoka141.JPG 45件 [詳細] filekaijou141.JPG 41件 [詳細] filekaijou142.JPG 43件 [詳細]

トップ   編集 凍結解除 差分 履歴 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2023-05-17 (水) 13:59:31